はじめに
この記事では、口頭試験突破に向けて取り組むべき5つの対策のうち、「6つのコンピテンシーの正確な理解」について詳細を説明しています。口頭試験の対策としては、まず不合格パターンを理解することが重要なので、まだ見ていない方はこちらから見ていただくことをオススメします↓
今年度合格された方も、残念だった方も、口頭試験に向けてぜひ参考にしていただき、技術系最高峰の技術士資格を全力で掴み取りにいきましょう。
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口頭試験で問われるコンピテンシーとは
日本技術士会HP内の「技術士第二次試験実施大綱」より、口頭試験の配点は以下の通りです。
口頭試験
(総合技術監理部門を除く技術部門)
I. 技術士としての実務能力(60点満点)
1.コミュニケーション, リーダーシップ :30点満点
2.評価, マネジメント :30点満点
II. 技術士としての適格性(40点満点)
3.技術者倫理 :20点満点
4.継続研さん :20点満点
技術士第二次試験の採点基準は、「技術士に求められる資質(コンピテンシー)」に基づいて行われます。要するに、国が定める「技術士」の資質を備えているかを試験全体を通して確認されているわけです。
具体的には、筆記・口頭試験を通して全部で8つのコンピテンシーを確認されます。
筆記試験に合格した時点で、このうち2つ(専門的学識、問題解決)が合格点に達しているため、口頭試験では残りの6つについて確認されるというイメージになります。
8つの技術士コンピテンシー
1.専門的学識 →筆記試験
2.問題解決 →筆記試験
3.コミュニケーション →口頭試験
4.リーダーシップ →口頭試験
5.評価 →口頭試験
6.マネジメント →口頭試験
7.技術者倫理 →口頭試験
8.継続研さん →口頭試験
そのため、口頭試験攻略のカギとなるのは、
「問われる技術士コンピテンシーを正しく理解した上で、”自分はコンピテンシーを正しく理解しています”ということを、試験官に時間内に正確に伝えること」
に尽きます。
ここで注意!
この口頭試験対策においては、大きな落とし穴があります。それは平成31年度(2019年度)の試験方法改正により、口頭試験の試問事項が変化していることです。
そのため2018年以前に技術士を取得した先輩方のうち、最新の試験制度を把握されていない方からの”自分の経験に基づくアドバイス”を受けると、不合格コースに乗ってしまう可能性があります。また令和5年度(2023年度)にもコンピテンシーの内容に一部改正がありました。
ここではそのような注意点も含めて説明していきたいと思います。
そこでここからは、各コンピテンシーごとの具体的な説明と想定される質問例を合わせて、詳しく解説していきたいと思います。
コンピテンシーで押さえるべきポイントとは
1. リーダーシップ
ポイント
一般的にリーダーシップと聞くと、「みんな俺についてこい!」という周りを引っ張っていく能力というイメージがあるかもしれません。しかし、技術士コンピテンシーにおけるリーダーシップは少し違います。日本技術士会HPによると「多様な関係者の利害等を調整し取りまとめる」と定義されています。要するに民主型(調整型)のリーダー像が求められているというわけです。
ざっくり言うと、技術士に求められるリーダーシップとは、関係者から相反する要求があったときに、技術的な提案により解決を図るという能力です。
つまり
「あなたはリーダーシップを発揮できますか?」
という質問は、
「あなたは技術士としての専門知識を生かし、専門技術的に妥当な折衷案を出すことで、関係者の相反する要求に対して利害調整を図ることができますか?」
といった意味の質問に置き換えて解釈する必要があります。
例えば現場監督の立場で言うと、発注者や近隣住民から、それぞれ以下のような要求があったとします。
「もっと全体工程を短縮できないか」
「工事音が気になるから、作業は9-16時の間でしてくれないか」
全体工程を短縮するためには一日の作業時間を増やしたいですし、一日の作業時間を短くすると全体工程が長くなってしまいます。つまりこれらは、どちらか一方を優先すれば、もう一方は成り立たない”相反する要求”となっているわけです。
そこで、双方の要求を満たすために、現場監督は技術的に解決できないかを考えます。
現設計の〇〇工法では1日あたりの歩掛が〇〇のため、完了までに〇〇日かかるな。一方で△△工法に変更すれば、1日あたり△△と歩掛が上がるため、1日の作業時間が短くなっても全体工程に影響が出なさそうだな。A→B→C→Dの順番で施工する予定だったが、施工班を増やしてA→B,C→Dの順番で施工すれば、全体工程を△△日短縮できる見込みがありそうだな。
このように自身の専門知識を生かして、技術的な中庸案の提案により利害調整を図ることが技術士に求められるリーダーシップです。
ところで、上記の書き方通りに近隣住民に伝えたとして、納得してもらえるでしょうか?おそらく「〇〇工法?歩掛ってなに?」となってしまうかと思います。
そこで、それぞれの関係者に合わせて、技術的な提案を分かりやすく伝え理解してもらう能力が次で説明する「コミュニケーション」の資質になります。
対策
①利害関係者の整理
提出した業務詳細の中で、関わった利害関係者を整理しましょう。
(発注者、コンサル、施工者、協力業者、会社、上司、部下、近隣、諸官庁、警察、将来その施設を利用するエンドユーザーなど)
②各関係者からの要求事項の整理
各関係者からの要求事項について整理していきましょう。その際、いわゆるQCDSE(品質、コスト、工程、安全、環境)の視点毎にまとめていくと、要求の相反関係が説明しやすくなり、試験官にもイメージしてもらいやすくなります。
③技術的中庸案の整理
相反する要求事項を整理したら、それらを解決するための提案した中庸案を整理していきます。この際、大前提として”専門技術的に妥当な”提案であることに注意してください。少なくとも試験官は自分と同じ部門の先輩技術士です。技術的におかしな提案内容であると、その後の質問で詰められる可能性を高めてしまいます。技術的に妥当な提案として、分かりやすく説明できるように整理しましょう。
想定される質問例
「この業務で、あなたはどのようにリーダーシップを発揮しましたか?」
「これまでの経歴の中で、複数の関係者から相反する要求をされたことはありますか?その際あなたはそれをどのように調整しましたか?」
2. コミュニケーション
ポイント
技術士は、業務を遂行する上で多様なステークホルダー(クライアント、協力業者、上司や部下、関連機関、ユーザーなど)と円滑に意思疎通を図ることが求められます。例えば、技術的な内容を1つ伝えるにしても、専門家には正確に伝え、非専門家には分かりやすく伝える等のコミュニケーション能力が必要となります。
このコミュニケーションは「明確かつ効果的な意思疎通」能力のことです。
明確かつ効果的に伝えるためには、相手の置かれている立場になって、正確に理解できるかをよく考えることが大切です。
例えば専門家の立場からすると、正確な専門用語や数値を用いて説明される方が、細かなニュアンスの違いも伝わり、短い時間でより具体的かつ正確なイメージを持つことができます。
「開削工事に先立ち土留工事を行います。鋼矢板の打込みについては、〇〇工法による打設より、近隣への騒音を低減できる△△工法による圧入を採用したいと思います。施工歩掛については、〇〇工法の10枚/日に対し、△△工法は8枚/日と2割ほど落ちるため、鋼矢板100枚の打込みに要する日数は3日ほど増加する見込みです。しかし、土留工事の工程には5日間のフロートがあり、△△工法を採用した場合でもクリティカルパス上からは外れるため、全体工程には影響ありません。」
一方で非専門家の立場からすると、分からない専門用語や具体的な数値が出てくると、そこで理解が追い付かなくなってしまいます。そのため、絵などを見せながら一般的に使用する言葉で説明された方がイメージしやすいかと思います。
「これから地面を掘るために、まず鉄の板を繋げて地中に壁を作ります。板の打込み方法については、音を小さくするために、叩くのでなく押し込む方法を採用したいと思います。少し時間のかかるやり方にはなりますが、その間に他工事も同時に進めていけるため、全体の工事期間は変わりません。」
これは少し極端な例かもしれませんが、つまりは伝える内容が同じでも、聞き手が求めている答えも異なりますし、その内容に対する理解度の前提条件も異なるということです。
このように多様な関係者に対して、自分の提案や指示を”正確に伝え理解してもらう能力”が「コミュニケーション」の資質になります。
対策
①リーダーシップを発揮した際の利害関係者の整理
「1.リーダーシップ」で整理した内容を元に、利害関係者を再度整理しましょう。この際、相手によって明確な意思疎通を図ったということを説明するために、関係者が”専門家か専門家でないか”という点に着目して整理するとこの後の説明がしやすくなります。
②関係者に応じた意思疎通方法の整理
実際のところ、口頭試験まで進んでおられるレベルの方は、普段から無意識のうちに相手によって意思疎通のやり方を変化させていることと思います。しかしいざ「具体的にどう伝えているか」と聞かれると、意外と求められているような回答が満足にできないこともあります。そのため、ここでは自身のコンピテンシー理解を示すために、キーワードを盛り込んだ回答を準備することを意識して意思疎通方法の整理をします。
曖昧さを排除するコミュニケーションをとるための最も有効な方法として「書面主義」という内容を盛り込むのが良いでしょう。これは文書に限らず、図面や絵などもそうです。
ここでは、相手に情報を正確に伝える上で”耳よりも目で伝える方が有効である”と知っていることをアピールしましょう。
③相手に応じてどう変えたかがポイント
このコンピテンシーのポイントは、「どういう手段を使ったか」よりも「相手によって伝え方をどう変えたか」が重要になってきます。
②で各関係者ごとの方法を整理したら、相手によって手段を使い分けられているかを再度確認しましょう。複数の関係者がいるのに、全員に同じような伝え方をしていると、”相手に応じて適切な手段を使い分けられる”という説明が難しくなってしまいます。その場合は、他に関係者がいなかったか、もっと違う伝え方をしていなかったか、よく記憶を遡りましょう。
想定される質問例
「関係者にはどのように説明したのですか?」
「あなたが普段からコミュニケーションをとる上で工夫している点を教えてください。
3. マネジメント
ポイント
マネジメントは「人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること」と定義されています。
業務を遂行する上で、資源には限りがあります。現場の例で言うと、配属された人員をすぐに増やしたり変えたりすることはできませんし、資機材や予算も限られています。こういった「限られたリソースを適材適所に最適に配分できるか」がマネジメントの資質になります。
例えば工程管理の観点で考えると、
✖️ クリティカルパス上の工種Aがボトルネックとなっていたため、他現場から人を増員した」
これは、技術士コンピテンシーのマネジメントにはなりません。
これは資源自体を増やしており、配分している訳ではないからです。
配分するということは、”増える部分があれば、同時に減る部分も発生する”ということになります。この場合で言えば、現場内の限られた人員を使って配分する必要があります。
◎ クリティカルパス上の工種Aがボトルネックとなっていたため、工程に余裕のある工種Bの一部人員を工種Aに回した
このように言い換えれば、全体工程を考えて限られたリソースを最適に配分したと言うことが出来るかと思います。
対策
①技術的提案について資源配分の視点で再度整理
「1.リーダーシップ」で整理した技術的な提案について、再度マネジメントの観点から見てみましょう。
リソースを配分している部分はありませんか?相反する要求を解消するために、重点的に取り組む部分を設定していませんか?
その重点的に取り組む部分に集中的にリソースを投入していれば、その反面リソースが薄くなっている部分もあると思います。そういったリソースがどこからどこへ動いたか(動かしたか)という視点を持って、技術的提案内容について再度整理してみましょう。
同じ技術的提案内容に関して、リーダーシップ、コミュニケーション、マネジメント等の説明ができれば、それが最も一貫性があり、試験官にとっても分かりやすくなります。
②メリハリ・厚みをつける
リソースの最適な配分を説明する上で、どこを最小限の配分にし、その分をどこの重要な部分に手厚く配分したのか、またなぜそういう配分をしたのか、リソース配分の理由と流れを明確にし、その上でメリハリのある配分の方が説明しやすいです。
③身近なところでも配分している
身近なところで考えると、私たちは限られた時間の中で業務を進めなければなりません。限られた中で仕事を終えるには、タスクの優先順位をつけ、重要なタスクには重点的に限られた時間や労力を割り振らなければなりません。
例えば、部下に仕事を頼む際にも、それぞれに適した難易度でないと、何度も手戻りしたり付きっきりで教えたりする必要が出てきます。それは自分というリソースが十分に力を発揮できない状態です。かといって何も仕事を振らなければ、その部下はやることがなく、人員というリソースが1つ余っている状態となってしまいます。これではリソースが最適に配分されているとは言えません。
効率的に仕事を進めるには、それぞれの能力や適性を理解し、適切な分担をする必要があるでしょう。これは限られた人員に対して、適材適所の配置により人員を最適に配分することで、効率的に業務を遂行していると表現することもできます。
想定される質問例
「本業務を遂行する中で、人員・設備・金銭・情報などが必要になったと思いますが、あなたはこれをどのように割り当てていましたか?」
「業務を進めるにあたり、リソースの配分をどのように行いましたか?具体的な例を教えてください。」
4. 評価
ポイント
ここでは、これまでの業務に対して、現時点でどのように評価しているかを問われます。
評価は「次段階や別の業務の改善に資すること」と定義されています。
ここで問われているのは「業務をやって終わりではなく、今後に活かそうとしているか」という内容になってきます。
具体的には、
・いまどう思っているか(現時点での評価)-成功例・失敗例
・今後どうするか(今後の展望)
をセットで考えるのが良いです。
上記を踏まえ、以下のようなパターンで回答を準備しておくのが良いでしょう。
①成功例-今後の展望
②失敗例-改善内容-今後の展望
①成功例-今後の展望
自分のこれまでの業務を現時点で評価したとき、成功例については、すでに結果が出ているものが説明しやすいです。
✖️「先日〇〇というやり方を実施したが、この先どうなるかはまだ分からない」
◎「このプロジェクトでは〇〇というやり方を提案することで工程を短縮し、工期内に工事を終えることができた。」
2つ目のように既に結果が出ている方が、成功事例として客観的に認識できます。成功例としては、既に実績があり「いま同じ状況になっても同じやり方をする」と言えるようなものが良いでしょう。
しかしこのまんま答えると、過去に満足して今後に繋げられていないと思われてしまいます。仮にいま当時と同じ状況になったとしても、現在の技術であったり当時と周辺状況は変わっているはずです。例えばICTやAIなどは、ここ最近で急速に発展してきている分野です。そういった新技術等によりさらなる改善が見込めないか再度考えてみましょう。
そして
「もし今ならこうする」
「今だったらこういうやり方をすればより良いと思う」
といった内容で答えられるように準備しておくことが良いです。
もし成功例が直近で、現在と状況があまり変わっていない場合は、水平展開に繋げるのが良いと思います。評価のコンピテンシーには「最終的に得られる成果やその波及効果を評価し..」という記載もあることから、自分の成功例から波及が期待できることを考えましょう。
「今回うまくいった〇〇を応用すれば、△△ということもできるのでないか」
といった感じです。
②失敗例-改善内容-今後の展望
失敗例については、実際にいまは既に改善していることのきっかけとなった出来事が説明しやすいかと思います。
例えば以下は、既に失敗したことを自分で反省し、改善策を考え、それを現在の業務に活かしている分かりやすい例です。
①「電話で資材を注文したら、双方の認識が一致しておらず、手配数量を間違えてしまった。」
②「そのため現在は、電話だけでなく、商品名や数量を明記したメールによる確認も合わせて行うようにしている」
“書面主義による意思疎通が大事だ”と認識しているアピールにもなり、「コミュニケーション」の得点にも繋がるかもしれませんね。
直近の失敗例であれば、
「今後は〇〇により××ということが無いようにしていきたい」
といった展望を話せば良いと思います。
成功例にしても失敗例にしても、「評価結果-今後」を繋げて回答を準備しておくことが重要です。
対策
①現時点での評価を行う
成功例と失敗例を1つずつ整理します。
成功例については、一貫性を出すため、また時間を節約するためにもこれまでの「1.リーダーシップ」で提案した内容に対する評価が最も望ましいです。
失敗例については、なるべく昔のものを選ぶのが良いです。経歴表の中で現在から一番遠い(若い頃の)業務における失敗が良いでしょう。若いときの失敗をもとに改善し、現在の業務に活かしているというエピソードは、技術士として常に改善を意識し続けているというアピールにもなるからです。逆にあまりにも直近または大きすぎる失敗談は「技術士になって本当に大丈夫か!?」という不安な印象を試験官に与えかねないので、失敗例としてはなるべく昔の軽微な経験を選ぶのが無難かと思います。
②改善策・今後の展望を整理
成功例と失敗例に対し、改善策や今後の展望を整理します。
この際の注意点として「技術的に妥当でない」内容を肯定してしまった場合は、一発で×が付く可能性があります。
これは極端な例ですが、
「コンクリート打設時にポンプ車の配管が詰まる失敗をしたため、到着したアジテータ車に現場で水を加え、スランプを大きくすることで施工性を高めました。その結果、配管の閉塞を防止し、スムーズに施工することができました。」
という内容を話したとします。
当然、現場での生コンへの加水は禁じ手です。
所定の配合で持ってきた生コンに加水をすれば、水セメント比(W/C)が大きくなりコンクリートの強度が大きく低下します。その結果、構造物は所定の強度を発現できず、将来それを利用するエンドユーザーである第三者の安全を脅かすことになります。
このように技術的に不適切であったり、倫理に反するような内容を言ってしまえば、「評価」だけでなく「技術者倫理」など多くの項目で×が付くことになると思います。おそらくその口頭試験自体が一発アウトに近いでしょう。
そのため、自分では成功例と思っていること、改善策として考えていることが、本当に妥当なものであるか、よく確認しておきましょう。
想定される質問例
「あなたのこれまでの業務内容を振り返り、良かった点や悪かった点はありますか?」
「あなたはその時の提案内容について、現時点でどのように評価していますか?」
5. 技術者倫理
ポイント
技術者倫理については、ある程度聞かれ方と答え方の型があるように思います。そして質問に割り当てられる時間も短めのため、用意した答えを簡潔に答えられるようにしておきましょう。
最近はいわゆる「3義務2責務」のような直接知識を問う質問より「最近のニュースで気になったものは何か」「この場合あなたならどうするか」などの形で問われることが増えてきている印象です。
とは言っても、知識を聞かれた時に答えられないと誤魔化しようがないため、まずは「技術士法」や「技術士倫理綱領」などの内容は確実に覚えておきましょう。
日本技術士会HPにて、技術士法と技術士倫理綱領の最新データを確認できます。
①技術士法(3義務2責務)
1.信用失墜行為の禁止
2.守秘義務
3.名称表示の場合の義務
4.公益確保の責務
5.資質向上の責務
「3義務2責務に違反した場合どうなるか?」という質問もあります。
違反した場合、全ての項目において行政罰(登録の取り消し)が適用されます。
またポイントとして、守秘義務に違反した場合は、刑事罰による懲役・罰金が適用されます。これは被害者が存在するからです。この辺もセットで覚えておきましょう。
②技術士倫理綱領
1.安全・健康・福利の優先
2.持続可能な社会の実現
3.信用の保持
4.有能性の重視
5.真実性の確保
6.公正かつ誠実な履行
7.秘密情報の保護
8.法令等の遵守
9.相互の尊重
10.継続研鑽と人材育成
倫理綱領はたまに改訂されるため、試験前にはチェックしておく必要があります。直近では2023年3月に改訂がありました。
①日頃の業務でどう意識しているか
筆記試験でも最後に記載することが多い「公益確保(公共の安全と環境の保全)」を重視している旨の回答を準備しましょう。具体的にどうしているのかと聞かれるため、業務の詳細を整理し、事例ベースで答えられるようにしておきましょう。
簡単な現場の例で言うと、
「歩行者や自転車の安全を確保するため、曲がり角の仮囲いは透明パネルに変更し、第三者の視認性向上を図った」
「現場では排ガス規制やLEDの資機材を手配するようにし、環境負荷の低減を図っている」
などが例として挙げられるでしょう。
②もし上司が倫理に背く内容の指示をしてきたら
上司が倫理に背くような指示(記録を改ざんしろ等)を出してきた場合、あなたならどうするかという質問です。
もちろん「バレないよう一緒に協力します」等の答えは一発アウトです。
これは「内部告発のステップを知っているか」「公益通報者保護法を知っているか」を問われています。
基本的に組織内でできることをやり尽くしてもダメな場合は、外部に告発する流れになります。
技術的な解決→上司→その上司→社内の窓口→組織内で応じてもらえない場合はしかるべき機関に公益通報
対策
①技術士法と技術士倫理綱領の理解
日本技術士会が定める「技術士法」や「技術士倫理綱領」をしっかりと理解し、それに基づいてどのように実務に適用しているか説明できるように準備します。
②実務における倫理的判断事例の整理
実務のなかでどのように技術者倫理を意識しているか、具体的な事例を用意しておきましょう。特に公共の安全と環境の保全に対して、これまでの業務の中でどのように対応したかを整理しておきましょう。
また倫理的な問題に直面した場面を想定し、どのような判断をすべきか、どのような行動をすべきか、そういった場面を想定して準備をしておく必要があります。
③最近の時事ネタの把握
時事問題から技術者倫理の質問に繋げてくる質問はよくあります。
そのため「最近気になったことは?」と聞かれた際には、その後「あなたがその工事の担当者だったらどうしますか?」と言う質問がくることに備えて、あらかじめ答えやすい事例を選んでおくのが良いでしょう。品質に関する改ざん等の事例が準備しやすいかと思います。
想定される質問例
「最近の倫理に反するニュースなどで気になってものや印象に残っているものはありますか?」
「あなたは業務の中でどのように技術者倫理を意識していますか?」
6. 継続研さん
ポイント
技術士は、常に技術の進歩に対応するために自己研鑽を続け、専門性を高める努力が求められます。ここでは「どのようにして継続研さんをしているか」や「なぜ継続研さんが必要なのか」等を確認されます。
①どのように研鑽しているか
これについては、
①これまでどのように研鑽してきたか
②技術士となった後、どのように研鑽していきたいか
という質問はセットで想定しておく必要があります。
セットで聞かれるということは、技術士取得の前後で研鑽内容に違いが求められているということです。特に今後(技術士取得後)の研鑽については、これまでより能動的な内容のものが求められているとされています。
研鑽内容の違いの例
①これまでの研鑽(受動的):研修や講習会への参加、学会誌の購読など
②これからの研鑽(能動的):論文投稿、学会での発表、研修や講習会での後進指導 など
②なぜ研鑽が必要なのか
技術士が継続的に自己研鑽をする必要があるのはなぜでしょうか。
ここでよく例として出るのが、耐震基準の話です。
勉強をサボっている技術者が、耐震基準の改正が行われたことを知らずに、これまでの経験・昔の知識(旧耐震基準)で新しい建物の設計をしてしまったらどうでしょうか。それは将来的に建物の利用者の安全を損なうこととなってしまいます。
このように新しい技術が誕生したり、法律が変わったり、時代は日々進化していっています。技術士も日々研鑽していかなければ、時代の変化に取り残され、その結果として公益の確保ができないことにも繋がりかねません。それが継続研鑽が必要な理由です。
また似たような質問として「CPDがなぜ必要か」という質問もあります。
CPDは「継続研鑽の見える化」するものです。これは「その技術士が継続研鑽をしている」と言うことを定量的に第三者に証明することができるものです。
質問の聞かれ方にもよりますが、CPDシステムの目的を聞く質問に対しては「継続研鑽を第三者に証明すること」といった内容の回答を準備しておくのが良いと思います。
対策
①継続研さんの具体的な取り組み
「これまでの研鑽内容」と「これからの研鑽内容」とで、それぞれの内容を整理しておきましょう。講習会やセミナーに参加していると言うと「どういう内容でしたか?」「そのセミナーで一番印象的だったのはどのような部分ですか?」といった詳細を聞かれることもあります。そのため、参加時の資料やノート等も読み返し、聞かれたら具体的な内容を説明できるよう準備しておきましょう。
②継続研さんの必要性
技術士に継続研さんが必要な理由を整理しましょう。その際、CPD制度について聞かれることも多いため、制度の理解と目的、どういったものが対象か、なども合わせて確認しておきましょう。
想定される質問例
「あなたはこれまでどのように資質の向上を図ってきましたか?」
「今後、どのように成長していきたいと考えていますか?」
まとめ
技術士口頭試験は、6つの技術士コンピテンシーに基づいて質問がされ、評価されます。それぞれのコンピテンシーについて正確な理解を図るとともに、過去の実務経験を整理して具体例を示しながら、あなたのコンピテンシーをアピールしていきましょう。
私が実際に口頭試験を受けた時のイメージとしては、1つのコンピテンシーで60%の得点ができた時点で、それ以降はそのコンピテンシーに関する質問が来なくなるように思いました。逆に言うと、同じコンピテンシーに関する質問が繰り返し来る場合は、自分の回答がまだ60%の基準に達していないという1つの目安になります。当日その状況になりネタが尽きるとパニックになるので、1つのコンピテンシーに対して複数の回答を準備しておくことが重要になります。
すでに十分な資質がある方でも、頭では分かっていても、時間内に口で正確に表現するということは、実際やってみると意外と難しいものです。
当日は自信を持って試験に臨めるよう、十分な準備をして効果的な対策を行っていきましょう!